第41回ズリーン国際映画祭

 ◆東欧見聞録◆ チェコふんじゃった【3】                                 by 半沢 浩
「ハムナプトラ2」がヒット中らしい
 夕方5時からの「スロバキア・アニメ」には時間があった。町中でちょっと休憩してじっくり映画祭のパンフを調べた。あせった。Youthのコンペ作品を何本かでも見ようと思ってたのが、全て終っていた。今日はスロバキア・アニメを見て、明日はチェコの実写映画を見よう。
 アニメ会場の「Cinema Mala Scena」は、寂しい地区のビルの地下にあった。外の汚れた感じとは違い、劇場内はきれいにしてあった。客は我々の他に約10名。一番後ろの端っこにスロバキア・アニメの関係者と思わしき女性が一人座っていた。ちょっとさみしいなと思った。アニメは、80年代から90年にかけて作られた短編アニメのセレクションだった。
 何本か見ていくうちに後悔しはじめた。はっきりいえば面白くない。違う映画を見ればよかった。一番前に座っていた地元の中学生らしき少女2人組は、10分で出て行った。ちょっとつらいなと思っていたら、所用で出ていたマルチニが戻って来たので、タイミングだと思い立ち上がった。扉から出ようとする瞬間、一番後ろに座っていた関係者らしき女性の表情が目に入った。
「お願い、最後まで見て!」が見てとれた。非常に申し訳ないと思ったが、私は途中退場した。明日は我が身か…?。
町外れの特設会場でアニメを鑑賞したワン
 ズリーンの映画館はベルケ・キノ1館だ。現地は『ハムナプトラ』(U?)をやっていてヒットし
 ているという。映画祭での上映場所は――

 ○トーマス・バチャ大学のアカデミーセンター(大学内のホール。ビデオ、DVD上映可)
 ○ベルケ・キノ(最大の会場)
 ○Cinema Mala Scena(町はずれの特設?会場)
 ○ズリーン城(館の中の一室を会場にしている)
 ○Ateliery Bonton Zlin(アニメの撮影所の中の試写室)
 ○他2館と野外スクリーン
   と大小8スクリーンだ。

 7時頃にホテル・モスクワで夕食。マルチニは、自宅からカローラUに似たルノーを持ち出し、歩いても行ける小さな町をグルグル案内し、気を使ってくれた。
 アニメを見ている最中に抜け出したのは、母親を迎えに行って家まで送ったからだった。車は母親のもので、我々のために車を出してくれたみたいだ。感謝。細やかに気を使ってくれるやつだ。彼のおかげでチェコ人って割とあったかいな、と思ったものだ。
 食後、今日もパーティやってるの? と訊くと、マルチニは残念ながらチケットがない、明日は表彰式のあと夜10時からパーティがありそれには出れると言って帰って行った。
 高木は、初日のホテルの部屋が、トリプル(ベッド3つ)に2人で寝て、私のいびきに悩まされたのと、まるっきりの自由時間がほしいのとで、自前で払うからと別の部屋をとった。部屋代は、一室2,000円ぐらいなので割と気軽だ。
                           
 食事も、500円ぐらいでかなり食べられる。パンかポテトかライスかと主食をたずねられ、試しにとライスを注文すると、大きなひとつの
 パーティのチケット
皿の料理の横にタイ米ふうな長い米の炒めたやつが乗って出てくる。ポロポロしておいしくないが…。

 高木と部屋に戻ろうとすると、マルチニがホテルに来た。パーティのチケットが手に入ったという。「まあ、金持ちばかりで、あんまり楽しくはないと思うよ」と2枚のチケットをヒラヒラさせてる。私は、ここにきて、ドッと疲れが出てきたので着替えてまた出るという気力がなく「今日はマルチニが行ってよ。明日もあるし」とせっかくのチケットなのに断ってしまった。
パーティ、パーティと私たちが言ってたので、マルチニが手に入れて来たのに悪かった。
「その方がいいよ。じゃ明日、朝迎えに来る」と帰って行った。
 私は、その夜はグッスリ寝た。

プロジェクターに突如、自分の異様な顔が!
●6月1日 この日も6時過ぎに起きた。日本に電話を入れたら(7時間の時差だから日本は午後2時頃)、『NAGISA』のビデオの予約があまり伸びてないという。小規模ながら劇場公開し、小沼監督の執念で出品したベルリン映画祭キンダーフィルムフェスト)でグランプリ、その勢いを借りてビデオ・DVDで商売に結びつけられるか、と思っていたが、なかなか思惑通りに事は運ばない。
 レストランで一人で朝食。と、同じように一人で食事している女性が何人かいて、どこか淋しげだ。英語が話せたら、いっしょに食べたいな、と思った。9時過ぎにマルチニが迎えに来た。昨夜のチケットでパーティーに行って来た、という。「スノビッシュ・パーティーだった」と、行かなくて良かったネ、っぽく話した。深夜の2時半頃までいて、眠いという。なんだ楽しかったんじゃないか、と我々は笑った。

Tomas Bata University
アカデミーセンターのホール
 9:30から大学のホールでチェコ映画「Helluva Good LuckU」を見る。400人ぐらいの子供で満員。
 上映の頭に、ズリーン映画祭の紹介ビデオがかかった。ビデオ・プロジェクター上映だったが、フィルムと遜色がない程質が良く、音響設備の良さも抜群。5〜6分程にまとめており、子供たちへの映画を見た感想などのインタビューも入っていた。
 と、何人かの各国の監督らしきインタビューの最後に、見慣れない異様な顔の人間が映った。隣席のマルチニがヒジで私をつついた。アレ!? 俺だ。「一つ目は〜」と日本語でズリーンの良さを喋ってる。チャハー! これは昨日『NAGISA』の上映の後に中学生テレビのインタビューに答えた時の映像だ。音楽も入って、ちゃんと編集してある。早いもんだ。でも、この異様な顔は何なんだ? 観客からも「ウォーッ!」と声が上がってる。俺ってこんな変な顔だったっけ? いやいやよく見ると(5秒ぐらいしか映ってなかったが)俺の普通の顔だ。何でこんな異様に見えちゃうの…!?(唖然) 
 私は40代も後半になったが、20代の頃は「日活のポール」と会社の女性に呼ばれていた時期があった。日活は10年間在籍していた映画会社・日活、ポールは勿論ビートルズのポール・マッカートニーのこと。(ポールはあっちのポールだと言う人もあったが)その後、メガネをかけ、かなり太ってはしまったが、面影は残っている(ハズだ)。その俺が、こんな醜く映ってしまうとは…。何故!? Why!?

 私は、その時『フォレストガンプ』を思い出した。最後の方で、片足を切断した友人が、松葉杖をついてアジア系の嫁さんを連れて来て主人公に紹介する。その時私は…。正直に言おう。そのアジア人(ベトナム系?)の顔が私には異形の女性に見えたのだ。何とも、醜い顔の女性(すみません)と片足をなくした男との心暖まるカップルで、あざとく着地させた映画に見えて、イマイチ納得がいかなかった。
――この映画と同じ感覚で自分の顔が見えたのではないか。つまり、この女性は元々それ程醜いわけではない。私自身も、それ程醜い顔ではない(と思う)。ところが、白人だけの映像を見せられ続けると、美醜の感覚が白人の尺度に変わり、黄色(ヤないい方だな)などの人種が合間に入ると、一種異形に見えてしまうのではないか。これを白人に引っ掛けて“ホワイティ効果”と呼ぶ(勝手だね)。私自身も、ここ2日間白人ばかり見ていて、子供にジロジロ見られる時以外は、アジア人だと意識せずに過ごしていた。
 随分前、ある雑誌に「日本映画が海外で売れないのは、白人が日本人の顔が嫌いだからなんだ」と、白人に聞いた話として書かれてあった。そうかもしれないな。でも、日本人の顔だって見慣れた国でなら(?)、「面白い映画は売れる」ようになる。『Shall weダンス?』なんかでその後証明されたハズだ。でも、こんなことを自分の顔で、考えてしまうなんてガックリだ。
 話が長くなったが、昨日舞台挨拶で子供たちの「ワーッ」と今の「ワーッ」は、初めて見る日本人の(私の)顔が異様に見えたことの驚きだろう。ちょっと悲しい。テレビ・映画等の日常で、白人の顔は見慣れてるので、逆の場合はほとんどないのに…。
 映画「Helluva Good LuckU」が始まった。特撮を使ったチェコで人気の映画のパートUだ。CG、ワイアー等を使った子供向けアクション映画だ。字幕はないが、大げさなボディアクションでだいたい理解できる。でも子供ってホント素直に反応する。『NAGISA』ほどではないが、すこしダレた場面だとお喋りで会場全体がザワつく。作る方は大変だ。

ボントン・スタジオで上映
  Ateliery Bonton Zlin
 その後、12時からの『NAGISA』の上映会場に向かった。
 かなり離れているという。車で約15分、山一つ越えた森の中にそれはあった。何とそこは、撮影所だった。小じんまりしていて、アニメやパペット人形の映画・テレビの撮影所「ボントン・スタジオ」だ。
 急に不安になった。車でしか来れないところにわざわざ映画見にくるか? マルチニに言うと「まあ10人位ではないか、一昨日のクロアチア映画は誰も来なかったよ」と明るく言う。大体、コンペ作品はベルケ・キノで一回上映し、次にこのボントン・スタジオの試写室で上映するというパターンらしい。子供なしで見る機会を設けているのか? 当初2回目の上映に合わせて2泊3日の予定で来ようと思っていたが、クリスチーナがぜひ1回目の上映時に合わせて来てくれと言ってきた意味が今、分かった。果たして客の数は…?
 客は2人だった。ハンガリーの監督と現地のガイドの女性だけ。正しくは1人だ。その唯一の観客、チャバ・ボロック監督(『North by North』をVisegrad Countries コンペに出品)が我々に話しかけてきた。「上映前にスタジオをいっしょに見学しないか?」
 どうせ1人なのだからとOKし、スタジオの中を見せてもらうことにした。アニメ用の撮影スタジオやブルーバック・スタジオを回ったが、やっぱりな、と思ったのはビデオのダビング(コピー)にスペースをとっていたことだった。どうもパッケージングまでしているらしい。
 20分ほど案内されて見学したが、心中は穏やかではなかった。昨日の上映を見逃した人向けにやるのだろうが、他の会場は、1km四方の範囲内にあるのに、ここだけポツンと離れている。他は、だいたい徒歩で回れるのに、ここは人里離れて車でしか来られない。各国から来た人のための会場なのか? しかし、この撮影所は山の中にあり、雑音が入ってくる心配も少なく、立地としては抜群にいい。ズリーンの中央街から車で15分というのも悪くない。
 チャバ監督は上映前、「僕はオヅ(小津)が好きだ。小津の映画はブダペストの特集でだいたい見ている。日本で有名な監督は、クロサワ、キタノの他に誰がいる?」と訊いてきた。私は、ちょっとアジア系の血も混じっていそうな顔のチャバ監督に、「フカサク キンジ、
ミヤザキ ハヤオ」と答えた。
 映画はすぐに始まった。もうちょっと彼と話をしたかったのだが。



▲GO TOP 

フィルム・シティのTOPへ